2010年 11月 18日
一昨日,裁判員裁判で初めての死刑判決がなされました。「時事通信」によると,裁判長は判決言い渡しの最後に被告に「控訴を勧めます」と呼び掛けました。また,ひとりの裁判員は判決後の記者会見で,「裁判長がおっしゃったように控訴してください」と述べたようです。 その理由が何であるのかは記事からは不明ですが,何とも奇妙なことです。控訴するのは被告であれ,検察であれ,判決に同意できないからするのです。しかし,裁判長,裁判員が控訴を勧めると言うことは,「被告が判決に同意できないことは正当だ」,つまりは判決に自信がないということでしょうか。あるいは,これは私の勝手な推測ですが,裁判長は被告に対しではなく,裁判員に「死刑判決は間違っていない,高裁でも同じ判決だ」と「死刑判決」という「評決過程でみられた」(?)裁判員の心労を癒そうとしたのでしょうか。 このことについて昨日の朝刊に2つの所論がありました。 ①判決は当然の結論とはいえ、神ならぬ身の裁判員のみなさんはさぞ苦しかっただろうが、裁判長が主文を言い渡した 後で、被告に控訴を勧めるとは何事か。そんな自信のない裁判官はプロ失格だ。 ②裁判長は判決言い渡し後、被告に「重大な結論なので控訴を勧めたい」と異例の説諭をした。その是非には議論があ ろうが、控訴審の可能性を示すことで裁判員の精神的負担を和らげる配慮だったとすれば理解もできる。 この2つの所論はどちらも産経新聞のもので,①は「産経抄」(読売の「編集手帳」,朝日の「天声人語」,毎日の「余録」に相当)で,②が「主張」(社説)です。新聞社の顔とでも言うべき記事があつちこっち向いているところが可笑しいと思いました。 それはともかくも,裁判長の法律のプロとして自己否定につながりかねない異例な「勧め」は,はたして裁判員のどのような心労への癒しだったんでしょうか。今回の裁判は事実関係において争いがありませんでした。今回の死刑判決が裁判官と裁判員の全員一致なのか,多数決によるものなのかは知るよしもありませんが,多数決によるものであるとすれば,自らの意に反して「死刑判決」の一員となってしまった裁判員の心労はどのようなものでしょうか。被告が全面否定する事案の場合,心証として「シロ」と感じながらも「死刑判決の一員」となってしまった場合の心労を想像してみます。 私は裁判員になることを拒否するとこれまでに述べてきました。その理由以下の2点でした。 1 裁判員を国民の義務とする法的根拠がない 2 裁判員の守秘義務は憲法18条の「その意に反する苦役に服させられない」に抵触する疑いがある これに1つ付け加えなくてはなりません。 3 私は私の意に反して人に死を強いる一員になることがある なお,裁判員制度についての私のこれまでの私の所論は以下の通りです。 「何もしない」のになぜ罪になるのか,裁判員を拒否したい・1(2008年5月25日) シナリオ通りに踊らされ,しかし,責任はすべて自前で。裁判員を拒否したい・2(2008年5月26日) 私が裁判員を「拒否」する理由(2008年12月22日) 「最高裁パンフレット」で知ったこと,裁判員制度(2009年12月26日) 私の疑問は残ります,裁判員制度は合憲という東京高裁判決(2010年4月23日)
by gakis-room
| 2010-11-18 07:00
| つれづれに
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Comments(6)
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saheizi-inokori at 2010-11-18 10:38
裁判員制度の抱える問題が早くも露呈しました。
検察、裁判所の抱える問題はとっくに、、。 やはり世界が壊れつつある?
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高麗山
at 2010-11-18 15:29
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判決後の説諭は良くあるそうですが、示唆、表現法
を熟慮すべきであったと思われます。
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gakis-room at 2010-11-18 17:48
saheiziさん,
この国はいつの頃からおかしくなったんでしょうか。
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gakis-room at 2010-11-18 17:50
高麗山さん,
「控訴を勧める」は単なる示唆,表現方法の問題では済まされないように思われますが。
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saheizi-inokori at 2010-11-19 09:42
衣食足りて、、ではないかなあ。
貧しさこそ人を緊張させ高みを目指させる?
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gakis-room at 2010-11-19 17:31
saheiziさん,
同じカンでも菅直人と管仲とでは余りにも違い過ぎます。 |
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