2007年 07月 01日
久間防衛相の発言と「賢明な判断」
久間防衛相は30日の「原爆投下はしょうがない」発言の後,朝日新聞の記者の取材に対して,発言の意図を次のように語っています。

「核兵器の使用は許せないし、米国の原爆投下は今でも残念だということが発言の大前提だ。ただ日本が早く戦争を終わらせていれば,こうした悲劇が起こらなかったことも事実で,為政者がいかに賢明な判断をすることが大切かということを強調したかった」

私にはこの意図には賛同できます。日本の降伏を求めたポツダム宣言が出されたのは1945年7月26日でした。この段階で戦争が終結しておれば以下の「悲惨と残酷」は起こりえませんでした。

  8月6日  広島へ原爆投下
    8日  ソ連の対日参戦
    9日  長崎へ原爆投下

付言すれば,ソ連の対日参戦は,結果として朝鮮半島の南北分断と満州における残留孤児問題をももたらしました。

政府がポツダム宣言の受諾に逡巡したのは国民の生命・生活よりも「天皇主権」の「国体の護持」を至上の価値と考えたからでした。このことからも,「為政者がいかに賢明な判断をすることが大切か」ということは,改めて言うまでもありません。

では,久間防衛相の発言は,「賢明な判断」だったのでしょうか。彼の発言には2つの重大な事実誤認か,そうでなければ意図的な歪曲があります。

①.「日本が戦後,ドイツのように東西が壁で仕切られずに済んだのは,ソ連の侵略がなかったからだ。米国は戦争に勝つと分かっていた。ところが日本がなかなかしぶとい。しぶといとソ連も出てくる可能性がある」

ソ連による「日ソ中立条約」の一方的な破棄による対日参戦を「侵略」と言えば「侵略」なのでしょうが,それは米国の要請によるものです。1945年2月の「ヤルタ会談」で,アメリカは「千島などのソ連領有」と引き替えにソ連の対日参戦を求めました。ソ連の対日参戦は,ドイツ降伏後(ドイツは5月7日に降伏,8日に降伏の効力発生),3カ月を目途とするものでした。

ヤルタ会談でのアメリカの要請がなければ,ソ連の対日参戦はありませんでした。しかし,その2ヶ月後にルーズベルトは急死します,かわってトルーマン政権になったからなのか,あるいはすでに米ソの対立=冷戦が始まったからなのかは,私には不明ですが,アメリカは日本を単独占領しようと考えたようです。

②.「幸いに(戦争が)8月15日に終わったから,北海道は占領されずに済んだが。間違えば北海道までソ連に取られてしまう。その当時の日本は取られても何もする方法もないわけですから」

ヤルタでの秘密協定では,ソ連の対日参戦の代償は「千島等のソ連領有」でした。久間防衛相は何を根拠に「ソ連による北海道領有」を言っているのでしょうか。

いずれにせよ,敗戦前後の歴史を語るのであれば,「原爆投下はしょうがない」と自己了解するのではなく,久間防衛相は彼の意図に従って,「賢明な判断」を怠った日本政府,つまり「ポツダム宣言の受諾」を逡巡した日本政府・軍部をまず批判すべきです。しかし,それは「戦後レジームからの脱却」を目指すという内閣の1員として,彼には「賢明な判断」ではなかったようです。
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by gakis-room | 2007-07-01 15:51 | つれづれに | Trackback | Comments(8)
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Commented by maron415 at 2007-07-01 16:30
この人の考えでは
じゃあ、北海道の土地をあげていたら、原爆が投下されなかったということになるのかな?と思いました。
まあ、結局とどめをさされないとやめれなかった戦前の政治家が悪いということなのかな。(この人の言いたいことは)
でも、過去の出来事を政治家が「しょうがない」ですませてくれたんじゃ何考えてんだ!ってなるかと…
それと、あべちゃんの、その発言は問題ないと言うのは「賢明な判断」をしたのね。
Commented by gakis-room at 2007-07-01 17:40
maron415さん,
>北海道の土地をあげていたら、原爆が投下されなかった…
アメリカはソ連参戦の予定日である8月8日までに単独占領したかつたんじゃあないでしょうか。ですから,日本のギブアップを急いでの原爆投下だったと思います。
あべちゃんは,何はともあれ,閣僚擁護だけだったと思います。
Commented by saheizi-inokori at 2007-07-02 10:43
おっしゃる通りだと思います。
今どういう意図でこの発言が出てきたのかが今いち分かりにくい。
イラク戦争についてアメリカの不興を買う発言をしたのを繕うためだというコメントを聞きましたが、そんな簡単なものではないようにもおもいます。
Commented by gakis-room at 2007-07-02 13:22
saheiziさん,発言の意図が全くわかりません。無知な人が肩書きにあせてしゃべってみただけ,そんな気さえしてきます。
Commented by saheizi-inokori at 2007-07-02 22:57
夕方テレビで安倍首相が「与党内にも批判の声があるそうだが」という記者の問いかけに答えて「今、みんな選挙で勝たなければと必死になっている。そういうときだから(怒るのも)当然だ」というようなことを笑顔で言ってました。脱力です。
Commented by gakis-room at 2007-07-03 08:15
saheiziさん,私はそのテレビを見ていませんが,そうでしたか。テレビで見る限り,ご当人が直接批判されると直ぐにキレてしまいますが,それ以外は弛緩しっぱなしのように見えます。
Commented by Count_Basie_Band at 2007-07-03 08:47
あれだけ無知でも大臣さまになれることを実証した点で賞賛されるべき人物ではないでしょうか(^^;)。

開戦から約半年後の「ミドウェイ海戦」において制海権と制空権を失った時点で手を挙げるのが戦争の常識だったのに、その後3年間も抵抗が続いたので米政府は驚愕し、大混乱に陥ったという先方のレポートを読んだことがあります。
Commented by gakis-room at 2007-07-04 09:21
Count_Basie_Bandさん,大臣,辞めちゃいました。論功行賞とお友だちの内閣,次には何がでてくるでしょうか。


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