2007年 06月 09日
174年前への回帰願望・規制改革会議のレポート
レポートの名前は「脱格差と活力をもたらす労働市場へ」。サブタイトルは 「~労働法制の抜本的見直しを~」です。A4,8枚の短いものです。日付は「平成19年5月21日」ですから,半月前にまとめられたものです。

それはこんな書き出しで始まっていました。

「全ての人々にやり直しの機会と希望を与え,格差や不平等を固定化させない社会をど のように実現するのか。再チャレンジを可能にする社会の実現には,労働者が学歴・性 別・年齢等に関係なく個人として正当に評価・処遇され,能力と努力に応じて事後のや り直しが何度でも可能となる,また,企業においても積極的に人材を活用できる労働法 制の整備が不可欠である」

これは「規制改革会議 再チャレンジワーキンググループ・労働タスクフォース」によってまとめられたものです。「タスクフォース」(task force)とは,手元の新英和中辞典(研究社)よれば「【米軍】(特殊任務を持つ)機動部隊」とのことです。さてはて,いかなる「特殊任務」なのでしょうか。

「全ての人々にやり直しの機会と希望を与え,格差や不平等を固定化させない社会の実現のために」 レポートはいいます。

…一部に残存する神話のように,労働者の権利を強めれば,その労働者の保護が図られ るという考え方は誤っている。

この神話を打ち砕くことがサブタイトルの「労働法制の抜本的見直し」ということのようです。ではどのように見直すのでしょうか。

1.不用意に最低賃金を引き上げる→その賃金に見合 う生産性を発揮できない労働者の失業をもたらし,そのような人々の生活をかえって困 窮させることにつながる。
2.過度に女性労働者の権利を強化する→最初から雇 用を手控える結果となるなどの副作用を生じる可能性もある。
3.正規社員の解雇を厳しく 規制する→非正規雇用へのシフトを企業に誘発し,労働者の地位を全体としてよ り脆弱なものとする結果を導く。
4.一定期間派遣労働を継続したら雇用の申し込みを使用 者に義務付ける→派遣労働者の期限前の派遣取り止めを誘発し,派遣労働者の地位を危うくする。
5.画一的な労働時間上限規制を導入する→脱法行為を誘発するのみならず,自由な意思で適正で十分な対価給付を得て働く労働者の利益無理やりに放棄させ る。

そして,今後3年間に検討していく課題をいくつかあげています。
  1.解雇権濫用法理の見直し
  2.労働者派遣法の見直し
  3.有期労働契約に対する制約の撤廃
  4.若者トライアル雇用の実施機関の延長(試用期間の延長のこと)
  5.派遣禁止業務の解禁
  6.同一労働・同一賃金の見直し
  7.パートタイム労働者への差別的取り扱いの禁止
 
こうした考えを一言で言えば,労働法が「労働者保護立法」であり,その「保護」が間違いであるというということでしょうか。「労働契約は『自由で対等』なものであり,労働契約に規制をかけるべきではない」というのです。

私は思い出しました。労働契約が労使双方の自由意志による対等な契約であるとの理由から,それに法規制をかけることは悪であるとした時代がありました。産業革命後の社会です。その結果,長時間・低賃金労働,劣悪な労働環境が大きな社会問題になりました。そして,労働時間に始めて法規制がかけられたのはイギリスの工場法です。174年前の1833年のことです。

「規制改革会議 再チャレンジワーキンググループ・労働タスクフォース」のレポートは174年以前に回帰したがっている,私にはそのように思われます。「美しい」は「醜悪」ないしは「頽廃」と同義語になりかかっています。
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by gakis-room | 2007-06-09 14:12 | つれづれに | Trackback(2) | Comments(10)
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Tracked from 墓の中からコンニチワ at 2007-06-12 16:20
タイトル : 10の質問
文藝春秋七月号「塩野七生:日本と日本人への10の質問」より 1)格差社会について >「再チャレンジ」には年齢別の配慮が欠けているように思います。 >人間は誰でも、仕事をすることで自信を確かにしていく動物でもあるんですよ。ならばその彼ら(注:四十代、五十代の失業者)の再教育のために国費を投じるよりも、その予算は官民一体となって彼らの所得を保障するかたちで配分すればよいのです。 >所詮は不可能な格差の完全解消よりも、格差が露わにならないような「緩和剤」について配慮されてはどうでしょう。 ...... more
Tracked from 墓の中からコンニチワ at 2007-06-12 16:20
タイトル : 欠陥記事
2006年7月に以下の記事を載せている。 一番わかりやすそうなので7月26日の朝日新聞から引用する。 *********************  ベストセラー「ハリー・ポッター」シリーズの翻訳者松岡佑子さん(62)が翻訳料収入について35億円を超える申告漏れを指摘された。スイス移住後も、日本で申告すべき「居住者」と認定された模様だが、松岡さんは異議を申し立てている。国際化が進み、富裕層が海外に住所を移す動きが目立つ中、「居住者」の認定をめぐる国税当局と納税者の攻防も激しさを増している。 ...... more
Commented by saheizi-inokori at 2007-06-09 21:36
まさに「新自由主義」の真髄ですね。私などの常識で読むと理解できない論理。
しかしこういうことの結果一番被害を蒙るはずの人びとが安倍を小泉を支持していると言うことが最大の問題です。
あっと気が付いた時には取り返しが付かなくなっているはずなのに。
Commented by Count_Basie_Band at 2007-06-10 04:25
「規制改革会議 再チャレンジワーキンググループ・労働タスクフォース」と言う名乗り方は「有識者会議」「賢人会議」よりもっと恥ずかしい。
使われているカタカナ語のそれぞれの意味を確かめたらとても名乗れないはず。
それほど恥ずかしい人の集まりですから、174年前に戻る、という結論しか出ないでしょう。
ま、結論がどうあろうと、会議に出ればメシが出て、交通費が出て、日当が出る。
その金を警察の射撃訓練の弾代にする方が社会の為になるとは思わない。

そして、嗚呼、

>一番被害を蒙るはずの人びとが安倍を小泉を支持している
Commented by gakis-room at 2007-06-10 10:12
saheiziさん,「新しい言葉で古に回帰する」,そんな感じです。「新夜警国家」とでも名付けましょうか。さてさて国民ですが,今朝の「報道2001」によれば,内閣支持33.6%,不支持57.0%で,その差24.6ポイントは過去最大になりました。これって7月まで維持されるかどうか,覚束ないような気がしてなりません。
Commented by gakis-room at 2007-06-10 10:17
Count_Basie_Bandさん,規制改革会議には,7つの作業部会があって,その下に15の分科会がありますが,いづれも「タスクフォース」を名乗っています。関西で言う,まさしく「イチビリ」です。
Commented by Count_Basie_Band at 2007-06-10 10:59
ほんま、「イチビリ」でんなぁ(^^;)。

知人の中に、この種の会議のメンバーになっている人物を数人いますが皆複数の会議に入っている「賢人」「有識者」「学識経験者」です。中で最も親しい男は「じっと座って、時々当たり障りのないこと言ってれば貰えるモノは貰えるんですよ。準備も何も要りません。どうせ役人が考えた通りにきまるんですから。まさにOnce a beggar, always a beggarですな」と自嘲しています。
「三日やったらやめられない」ってわけですね。
Commented by gakis-room at 2007-06-10 17:12
>「三日やったらやめられない」
加えて自尊心も満たされるってことですね。
Commented by Count_Basie_Band at 2007-06-11 09:59
>加えて自尊心も満たされるってことですね。

さて、それはどうでしょう?
大学出たてのチンピラキャリアに、無視されるのはましな方で、「バカ」呼ばわりされることもあるそうですから
Commented by gakis-room at 2007-06-11 11:29
Count_Basie_Bandさん,「バカ」呼ばわりされてもなおノコノコ出かけるなんて。それほどまでに小遣い稼ぎをしたいが少なくないということですかね。
Commented by Count_Basie_Band at 2007-06-11 13:32
>それほどまでに小遣い稼ぎをしたい

収入を全部奥方に渡し、そこから小遣いを貰うという日本の都会人独特の生活パターンの人の価値観は、私のように全額自分が管理し、家人には収入額も知らせていない「イナカモン」には理解不能です。
Commented by gakis-room at 2007-06-11 13:39
Count_Basie_Bandさん,そういうことでしたか。よくわかりました。なんか悲しいねえ。


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