2006年 09月 12日
中国の対日戦争の終わり方を否定した安倍発言
昨日行われた日本記者クラブ主催の安倍,谷垣,麻生の3人の公開討論会は,概して凡庸な論戦でした。3人が掲げたこれからの日本イメージは,それぞれ「美しい国 日本」,「絆」,「活力ある日本」でしたが,中学生の作文でももう少しましな「題」をつけられそうに思いました。

その中で安倍氏の次の発言が気になりました。谷垣氏の「日中国交回復時に中国は(日本の)戦争指導者と一般の日本国民を分けて(中国の)国民に説明した」との発言を受けたもので,「文書としてそんな文書は残っていない。交わした文書がすべて」といいきりました。

さらに続けて,「日本の国民を2つの層に分けるのは中国側の理解」であって,それは「やや階級史観風ではないかととの議論もある」とも述べました。

日中国交回復にあたって,とりわけ賠償請求権の放棄について,周恩来総理が「悪いのは一部の軍国主義者で,一般日本国民も軍国主義の犠牲者である」と中国内部の不満を説得した,ということはよく知られていることです。

安倍氏の言うとおり,日中共同宣言(1972年9月29日)ではその第5項で
「5 中華人民共和国政府は,中日両国国民の友好のために,日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する」
とだけしか書かれていません。

しかし,この共同宣言に至るまでに田中角栄首相と周恩来総理はは4回の会談を行っています。外務省アジア局中国課作成の記録(http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/index.html)によると,9月26日に行われた第2回首脳会談で,周恩来総理は冒頭,次のように発言しました。

周総理:日本政府首脳が国交正常化問題を法律的でなく、政治的に解決したいと言ったことを高く評価する。戦争のため幾百万の中国人が犠牲になった。日本の損害も大きかった。我々のこのような歴史の教訓を忘れてはならぬ。田中首相が述べた「過去の不幸なことを反省する」という考え方は、我々としても受け入れられる。…
 我々は賠償の苦しみを知っている。この苦しみを日本人民になめさせたくない…日中両国人民の友好のために,賠償放棄を考えた。…
 日中両国人民が世々代々つきあっていけるようにすること,過去半世紀の歴史を繰り返さぬようにすることが,両国人民の利益であり,アジア・世界の平和に役立つ。

これに対して,田中首相は「大筋において周総理の話はよく理解できる」とした上で,「賠償放棄についての発言を大変ありがたく拝聴した。これに感謝する。中国側の立場は恩讐を越えてという立場であることに感銘を覚えた。中国側の態度にはお礼を言う 」と答えています。

交渉過程の記録は外交文書ではないかもしれません。しかし,ここに対日戦争に対する中国の終わり方がよく現れています。先の安倍発言は,この終わり方を否定したものと考えてもいいようです。それは靖国参拝以上に安倍外交は「危うさ」,「大胆さ」を越えてしまったといってもいいようです。
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by gakis-room | 2006-09-12 13:15 | つれづれに | Comments(10)
Commented by saheizi-inokori at 2006-09-13 10:16
事実を否定してしまう!評価がいろいろあるのはまだしも。
対話の前提がなくなると暴力・力のやり取りしかないですね。
恐ろしいです。
Commented by gakis-room at 2006-09-13 11:36
「中国の首脳は考えた。日中首脳会談を無条件で再開し,北京を訪れた安倍首相(?)をしっかりと締め上げる」,私の見た悪い夢です。
Commented by YUKI-arch at 2006-09-13 13:40 x
安部氏は確信犯です。小泉よりタチが悪い。
Commented by gakis-room at 2006-09-13 15:38
内閣官房長官としてではなく,外交についての始めての個人的見解の表明ですから,ご指摘の通り確信犯かもしれません。とすればかなりタチが悪い。
Commented by saheizi-inokori at 2006-09-13 23:14
参議院への介入も本来なら総裁として今までやっていなかったことがおかしいのかも知れませんがコト安部の場合は何か恐ろしさを感じます。
Commented by gakis-room at 2006-09-14 08:12
いえいいえ,すでに党内手続きを経ているのですが,「官房長官であつた私が関知していないから,党総裁として再吟味する」と言うことらしいのです。強権をふるうつもりらしいです。
Commented by へいたらう at 2006-09-14 20:46 x
私は、中国側が言った二分論というのは、両国にとって、非常にわかりやすい解決手段(ガイドライン)だったと思っています。
いわゆる、「罪は彼一人にあり」ですよね。
世界的に見れば、これを理解しようとしない日本の方が異質なのではないでしょうか。

今の日本のそれは、感情論であり、中国のそれは抑えが効かなくなっているのだと思います。
もっとも、そんな安倍さんを、中曾根さんは「小泉君には思想がなかったが、安倍君にはある。」といってましたが、何か、焚きつけているようにも思えました。
Commented by きとら at 2006-09-15 00:54 x
 はじめまして。
 昔、江沢民が来日した際、「何回謝罪すれば済むのか」という質問に対し、「文書では一度も謝罪していません」、と回答しました。日本政府はあとあとのために、例えば今回の安部発言のために文書を作らなかったのかもしれません。(笑)
 
 文書にない、というのは、われわれ日本の政治家の発言には何の誠実さも信頼性もありません、というに等しいです。これでは外交はできません。
Commented by gakis-room at 2006-09-15 06:27
へいたろうさん,中曽根さんは安倍さんを焚きつけると言う以上に小泉首相を恨んでいると思います。比例区終身1位を彼に取り上げられ,確かそのとき「これは政治的テロだ」とわめいていましたから。
Commented by gakis-room at 2006-09-15 06:32
きとらさん,ようこそ。
>文書にない、というのは、われわれ日本の政治家の発言には何の誠実さも信頼性もありません、というに等しい

安倍氏の師匠の小泉首相は国債30%問題で「公約が守れなくっても大したことではない」といつて平然としていました。


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