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2005年 10月 29日
理念なき自民党の新憲法草案を嗤う
自民党の新憲法草案が決定されました。この新憲法草案についての論議は「戦争放棄」から「安全保障」へと章のタイトルが変わった第9条を中心になされることでしょうが,私には,自民党草案には何よりも民主主義の歴史性とその理念が欠落しているように見えます。

自民党草案では,前文の冒頭に「日本国民は,自らの意思と決意に基づき,主権者として,ここに新しい憲法を制定する」としています。この部分に問題はありません。問題は国民を「主権者」としながら,国民主権主義の理念が欠落していることです。

自民党草案だけでなく,現行憲法への私の不満はその構成にあります。なぜ,主権者である国民が第3章で,その「地位は国民の総意に基づく」ものである天皇が第1章なのでしょうか。主客が転倒しています。

憲法の第1章は断じて「日本国民」です。大日本帝国憲法では,天皇が主権者でしたから,第1章は天皇でした。国民主権主義の憲法の第1章は,ことの道理として「日本国民」でなければなりません。象徴天皇制が存続されるのであれば,第1章の中で,主体である主権者としての国民が,その総意の結果として,客体としての象徴に天皇をあてることを明確にすべきなのです。たとえば「日本国民は国民の総意に基づいて象徴としての天皇をおく」というように。

第2章は「国民の権利および義務」です。そして最初の条は現行憲法の第97条,すなわち「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は,人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって,これらの権利は過去幾多の試練に堪え,現在及び将来の国民に対して侵すことのできない権利として永久に信託されたものである」とします。

ついで,その次の条で現行憲法の第12条の前段「この憲法が国民に保障する自由及び権利は国民の不断の努力によって,これを保持しなければならない」とします。

このように国民主権主義,つまりは民主主義の歴史性とその理念を踏まえた上で,現行憲法の「第2章 戦争の放棄」と自民党草案の「第2章 安全保障」は,第98条の第2項の「日本国衙締結した条約及び確立された国際法規は,これを誠実に遵守することを必要とする」とともに「国際関係の基調」として第3章であることが,国民主権主義の憲法として私には自然に思えます。

by gakis-room | 2005-10-29 05:43 | つれづれに | Comments(2)
Commented by sayaya at 2005-10-29 11:44 x
今まで憲法の内容には疑問を持ったことがありましたが、順番に視点を向けたのは初めてです。
今、教職の単位として、日本国憲法を受講していますが、なかなか興味深いです。自国の憲法だからこそ、しっかり勉強したいです。
Commented by gakis-room at 2005-10-29 17:54
日本国憲法の前文はジョン・ロックの社会契約思想の要約として,また,基本的人権については97条→12条→11条の順に読み解句ことによって,民主主義の歴史性とその理念が理解できると思っています。


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