人気ブログランキング | 話題のタグを見る
2013年 04月 27日
日本だけが憲法改正手続きのハードルが高いという嘘
安倍首相を初め一部のメディアが,「各議院の総議員の3分の2以上の賛成」で発議し,国民投票で「その過半数の賛成を必要とする」という96条の改正手続きはハードルが高すぎるから,「3分の2を2分の1に改正すべき」だとか言っています。確かに憲法制定以来,1度も憲法を改訂をしていない国は,主要国の中では日本だけです。しかし,それは改訂のハードルが高すぎるからなのでしょうか。

日本だけが「ハードルが高すぎる」というのは嘘です。例えばアメリカの場合は,第2次世界大戦後から2010年7月までに6回の改正をしていますが,改正のためには「上下両院の3分の2の発議」で,「全州の州議会の4分の3の賛成」を必要としています。日本よりも遙かに高い改正のためのハードルです。


以下は,国立国会図書館政治議会課憲法室の「諸外国における戦後の憲法改正【第3 版】」(2010年8月3日)に基づきます。

【アメリカ】
修正の発議
アメリカの場合は,憲法改正ではなく,憲法修正と言います。
「連邦議会の両院の3 分の2 の賛成」あるいは「3 分の2 の州議会が発議し,連邦議会が招集する憲法会議による提案」
改正の承認
 「全州の4 分の3 の州議会の賛成」あるいは「全州の4 分の3 の州の憲法会議の賛成」

国民投票はありません。しかし,連邦議会ての上下院では3分の2,州議会では4分の3がハードルてすから,日本よりも遙かに高いハードルです。1787年の憲法制定以来,これまでに11.000件以上の修正提案がありましたが,それらの多くは連邦議会における委員会段階で廃案となっています。また,連邦議会によって発議されたものの、州議会によって批准されていない修正案が過去に6件あります。

【ドイツ】
ドイツでは憲法ではなく,基本法といいますが,基本法が事実上の憲法です。1990年の東西ドイツの合併では,東ドイツが西ドイツに参入という形式をとったために基本法はそのまま残りました。

改正の手続き
「連邦議会の3 分の2 以上の同意」かつ「連邦参議院の3 分の2 以上の同意」

国民投票は必要とされていません。しかし,連邦参議院は日本の参議院と異なって16の州代表(州政府)によって構成されてます。各州には3〜6の議員が与えられますが,評決には1名の代表者が一括行使しますから,見方によっては,全体的なムードにながされることもある国民投票よりもハードルが高いとも言えます。なお,西ドイツ時代を含めて57回改正されています。

【フランス】
「憲法第89 条による改正」と「憲法第11条による改正」との2つの方法があります。

改正の発議(89条)
首相の提案を受けた大統領及び国会議員
改正の承認
両議院によって同一の文言で(過半数で)可決された後に,国民投票で承認される。

ただし、政府提出の改正案に関して,大統領が両院合同会議に付託して,有効投票の5 分の3 の特別多数で可決された場合は国民投票は省略されます。なお,これとは別に,憲法第11条は,大統領による法律案の国民投票への付託の権限を定めています。

1958 年10 月4 日に制定された現行の第五共和国憲法では、日本よりもハードルが低く現在までに24回改正されています。フランスの上院(元老院)の定数は343議席。任期6年で,半数が改選されるところは日本と同じですが,上院議員は地方自治体や海外在住者の代表とされ,国会議員や地方議員らによる間接投票(県の規模により、小選挙区制と比例代表制が併用)で選ばれます。


米,独,仏の3国(イギリスは成文憲法をもたない)の場合,アメリカは明らかに日本よりハードルが高く,ドイツは国民投票はありませんが,二院の3分の2という点では日本と同じです。連邦参議院をどの様に見るかによって,日本よりもハードルが高いとも低いとも言えそうです。フランスでは,憲法改正のハードルは日本より低いですが,フランス憲法には人権規定はありませんが,前文でフランス人権宣言と第四共和国憲法での規定は有効としています。

安倍首相は「(反対する)国会議員が3分の1をちょっと超えれば、国民が(憲法に)指一本触れられなくなるのはおかしい」とも「それは事実上、国民投票をさせないために言っているに等しい。国民はそうした国会議員に対して、もっと怒らなければいけない。国民の見識を信じ、(国民投票で)2分の1の国民が賛成するものは変えていく」とも言っていますが,「おかしい」のは「3分の2」ではなく,これまで「改正すぺき内容を提示して国民に問わなかった」臆病さのように思われます。また,「もっと怒らなければならない」のはそのような臆病さを隠してすべてが「3分の2」にあるかのような嘘に対してのように思われます。

by gakis-room | 2013-04-27 18:00 | つれづれに | Comments(4)
Commented by saheizi-inokori at 2013-04-27 22:01
このまま突っ張らしてはいけないとおもいます。
どうするか?それが問題。
Commented by gakis-room at 2013-04-28 08:02
saheiziさん,
それが問題だとは分かっているのですが…。
Commented by korima at 2013-04-28 10:33 x
テレビは前からおもしろくなかったのですが
新聞も最近紙面が変わってしまって
「固い」記事が少なくなってしまいました。

憲法の解説を読んでも、生ぬるい感じで…
どうしようもないけど、この流れはいやですわ。
Commented by gakis-room at 2013-04-28 11:41
korimaさん,
新聞の解説記事がパッとしないのは記者の質の変化でしょうか。
それでも私は朝日と産経の購読者です。


<< 「主権回復」よりも「主権を失う...      ツリガネスイセンの青花です >>